ラカン精神科学研究所 福岡

福岡の精神分析家 進志崇献 が精神分析的視点で綴っています。人はコンプレックス(無意識)に支配されています。

高橋まつり 電通 過労死の精神分析的考察2(File.045 )

こんにちは、精神分析家 進志崇献@福岡です。

高橋まつりさんは自殺に追いつめられたのか?更に考えた。

進志崇献(しんしそうけん): lacan.msl.f@gmail.com

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高橋まつり 電通 過労死の精神分析的考察(File.044 )の続き。
http://lacan.hatenablog.com/entry/2016/10/09/231001

実は私自身も同僚が自殺した経験を持っている。もう30年近くの前の事だが記憶に留めているからには「忘れらない出来事」と言う事になる。

当時、日本の産業界はどこも活況を呈していて、総務部から「月の残業時間は80時間以内に抑える様に」との指導があったが、月に数回休日出勤をしようものなら軽く100は超える。そんな事が常態化していた。「今月残業時間いくらいった?」と言う会話が社交辞令の様にかわされてた時代。

特に人件費の塊であるソフトウェア開発なんて言う仕事は、仕様変更が相次ぎ、自分が今つくっているソフトがこのままで納品できるのか?と言う心的不安が付きまとう。青天井で残業できていた時代の話であるが・・。

1985年、これ以降、企業は爆発的に従業員を増やしだす。リクルート事件の温床になった動きである。この年は50人、翌年は100人、更にその翌年は200人。倍々ゲームと言うやつだ。とにかく人を採用して現場に送り込む。企業間の契約は1人月単位。「このスキルの人を御社に派遣すると月50万円頂きます」。こんな調子の契約。

これが、1989年のバブル崩壊まで続き、その翌年から世間を跋扈した言葉が「就職氷河期」「短大生の就職は土砂降り」。生まれた年が2、3年ズレただけなのに片や「就職バブリアン」片や「氷河期」。運命とは皮肉なものである。

そんな労働環境や就職環境が激変する中で僕たちは日々仕事に励んでいたのだが、僕と同期入社に藤川君(仮名)がいた。彼の出勤校は「京都コンピュータ学院」で、なにかいつもブツブツいいながらプログラムリストに向かっていた。そんなに深い話をした事も無かったが、真面目そうな研究者タイプの人であった。

3ヶ月研修も終わり、藤川君と僕は違う部署に配属されたので自然と疎遠になっていき、特に日常生活では接点のない間柄になっていった。

そんなある日、唐突に、藤川君が亡くなったと言う話が飛び込んできた。「なんで?」と聞くと「自殺」だと・・。本人が亡くなってしまったので周辺情報を繋ぎ合わせて推測するしかないのだが、仕事上の悩みを苦に、電線を体に巻いて「感電自殺」。詳しい事はわからない。ただ、妹さんは前日から様子がおかしかったのは感じていた・・らしいと言うそんな朧気(おぼろげ)な事しかわからなかった。

当時、私の上司の藤戸さん(仮名)は「将来を嘱望されていたのに、上司は責任をとったのか!」と憤慨されていたのを覚えている。

やはり「自殺」は本人も苦しくてそういう選択肢を選んだのだろうが、遺族や周りの人にも悲しい思いをさせるのだ。

私自身、長らく京都へ向かう新幹線の車窓から「京都コンピュータ学院」が見える度に藤川君の事を思い出し、新入社員当時の事を思い出していた。

話を「高橋まつり」さんに戻す。

お母さんが女手一つで育てた「高橋まつり」さん。猛勉強して「東京大学」へ入学した「高橋まつり」さん。在学中から積極的にマスコミに露出し就活をしていた「高橋まつり」さん。「電通」へ入社した「高橋まつり」さん。クリスマスに社員寮から投身自殺した「高橋まつり」さん。

経歴を並べてみても、中高でイジメにあっていたなどと言うトピックは出てこないし、それこそ「父不在」である点を除けば「順風満帆」としか言いようがない経歴。

それがなぜ、2015年04月に電通に入社して、たったの8ヶ月の2015年12月25日に投身自殺するに至ったのか?

「敗北」を知らない「高橋まつり」さんが最初に味わった「挫折」が「死」に直結したのか?社会人になって初めて知る他者からの攻撃的な言葉(パワハラ)が「高橋まつり」さんの精神状態に打撃を与えたのか?

それにしても「高橋まつり」さんの様に露出度の高い人で、学生時代の人脈も豊富そうな人が、社内の人になった途端、孤立無援で自殺に追い込まれるものなのだろうか?

昨今は、みな手元にマイスマフォがあって「ツイッター」や「フェイスブック」や「ライン」で簡単に他者とゆるい繋がり(ネットワーク)を形成して、SNS時代の風潮(波)にのって利便性を享受している筈ではなかったのか?

「高橋まつり」さんのツイッターでの「死にたい」とか「鬱だ」とのつぶやきは単なる仕事上の「ぼやき」としてスルーされ、一瞬、フォローしている人のスマフォに現れた他者の「つぶやき」であったのか?

今となってはわからない事だらけである。

ただ言える事は、末期は既に自殺企図者化していた「高橋まつり」さんの危機的状況を察知し、然るべき対処をした人は社内にも、社外にも一人もいなかったのである。

心の病は厄介なことに一見してもわからない。厳密に言えば、感情の伴わない微笑みをみたりすると「危ない」と感じるケースもあるのだが、内科クリニックみたいに血液検査して異常値をみつけて、はい抗生物質と言うわけにはいかないのだ。

先にチェックした映画「ウォールストリート(2011年)」でも、強欲なゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)が娘に向かって「言いたくはないが、高い金払ってセラピストもつけたし、息子に薬を売るなと売人に金をつかませた事もある!」と自己弁護するシーンがあります。欧米ではセラピストの存在はスタンダードですが、日本ではまだまだです。

できれば、心のチェックをセラピストと定点チェックされる事をオススメします。高橋まつりさんのような悲劇を回避する為に。

これは、蛇足ですが、今度は母の高橋幸美さんの方が心配になります。女手一つで育てた「まつりさん」を失い、対象喪失状態であるわけです。今更、過労死が認定されても「まつりさん」は帰ってきません。モーニングワークまたはグリーフケアを誰かが寄り添って・・。

今年のクリスマスはまつりさんの一周忌になるわけで、これから毎年、クリスマスが来る度に高橋幸美さんが悲しみにくれられるのかと思うとつらいです。世間では何かと華やかな催し物がひらかれるのに。

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